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2012年3月31日土曜日

つなぐことがITの価値


 東日本大震災は、たしかに、100年に一度あるいはそれ以上の間隔で発生する稀な災害であることには違いないが、日本では、古来より大きな被災は、遷都、寺社仏閣の建立、政治体制の改革など、変革の重要なトリガーとなってきた。今回の震災も、福島原発、津波の被災などで膨大な犠牲者を前に、人災と呼ばれるような事態も少なくない。事前に対策を打っておけば、あるいは技術的に可能なことを実施しておけば、また、政治や行政がしっかりしていれば死なずに済んだ命の多かったかもしれないと、まさに、できることをしなかった後悔が多くの人たちの心に渦巻いている。これらを反省し教訓として、早急に改革を実施することでしか亡くなった方に報いることはできないであろう。
 では、改革とは何を変えることなのだろうか。現状を把握して改善することも重要であるし、トップダウンによって根本的に社会を再構築することも必要かもしれない。どちらにも現場とトップの意識改革が必要であることは言うまでもない。しかし、それだけでは不十分であろう。現代のような複雑な社会システムでは、改革とは、その社会システムの構造をも変えることを意味する。東日本大震災の被災地のさまざまな試みが既存の規制に阻まれてなかなか進まないとも聞く。制度と慣習の背後にある考え方や構造自体の改革がなければ実現されない。もはや複雑すぎる社会が形成されているからである。
 ITもまた、技術的に可能であったはずのことができなかったという苦渋に包まれている。BCPの議論がたしかに盛んであるが、サーバーを外部に置くことだけでは解決できない問題も多い。流失した住民記録が別の場所で保管されていたにもかかわらず、それを使用する規則がないために、使えなかったというエピソ-ドは象徴的である。また在宅勤務がITによって可能になったとしても、勤務制度、労務慣行がそれを許さなければ実施されることはないだろう。
 かつて、住民記録オンライン実施への反対者たちの批判をかわすために、セキュリティを重視し、目的外の利用を大幅に制限してしまったことが、ITの重要な価値であるデータの連携、データをつなぐ可能性を閉ざしてしまったのも事実である。その“つけ”を今回の東日本大震災が払っているともいえる。補償金の支払い、安否確認など自治体の果たすべき業務が滞った責任を、当時の反対者たちはどう考えるのだろうか。
 我々が議論を積み重ねてきた金流・商流・物流情報連携は、間違いなく日本のビジネス構造の変革を目指している。既存の業界、縦割り行政によって構築された個別最適的な現行のしくみでは、ITを利用したとしても、その潜在的能力を十分発揮させることはできない。それは技術的に困難だからではなく、規制や垣根、企業の姿勢など、IT化と同時に制度的、構造的な問題を解決しなければならないからである。まさしく、金流・商流・物流情報連携に取り組むことは、復興を促進させるための日本の構造改革に通じるところがあり、部分最適と継続的改善は得意だが、組織間連係、全体最適、構造改革が必ずしも得意とは言えない日本の弱みを象徴している。人と人、組織と組織をつなぐために、IT、とりわけインターネットを典型とするネットワーク技術は開発され、つなぐことでその価値が初めて認められるのである。
 国をあげてグローバル化に取り組むということは、貿易、すなわち遠隔地との生産物の交換、国内にない商品を他国から入手し、かつ国内がもつ優位な生産物を他国に売ることによって、国と国民が大きな利益をあげることであり、それは、大河ドラマの平清盛を見ずとも誰もが知っている。貿易の円滑化を奨励することが国の大きな責任であることも常識中の常識である。鎖国と言われた江戸時代末期に、海外との貿易に成功した薩摩、長州が、次の政権を握ったということは、まさしく貿易が変革に大きな役割を発揮していたことを示している。
 TPP、あるいは2国間協定などさまざまな形で、自由貿易を推進する新たな動きが起こるのは必然であるが、そこに、日本の弱み、つまり個別最適の限界と構造改革問題をひきずっていては、大きな成果をあげることはできない。政治にリーダーシップをもとめる風潮はいつの時代も変わりないが、緻密な社会システムの構築は政治家だけでなく、専門家、産業人、経済人の叡智のもとでの十分な議論の積み上げと協力体制なしには達成できない。新興国とFAXや電話で受発注するなどの時代錯誤があってはならないし、また、未成熟なシステムやIFRSのような欧米の標準や仕組みを強制的に導入するような愚をアジアで起こしてはならない。物流、商流、金流の連携における本研究会の成果の移転をもって、日本の経済的なリーダーシップを発揮すべき局面が現在なのである。
 これまで我々はグローバル化する日本の産業の未来への懸け橋の役割を果たし、ある意味で、準備的研究をしてきたともいえる。国内における物流、商流、金流の各プロセスをバリューチェーンとして連携し、日本の競争力強化の基盤的機能を整備し、そのモデルをアジアの貿易円滑化に提供することで、アジアにおける情報基盤のリーダーを担うことができる。
 貿易を通じた国と国民の富の増進に寄与するグローバリゼーションを目指して必要とされる情報基盤機能として、
①国際的サプライチェーン構築支援
②データ連携による相互運用性の向上
③新興国との取引の奨励
④ビジネスコラボレーションの向上
⑤single window、すなわち単一のユーザーインターフェースによる貿易にかかわるすべての情報交換の実現、の5つをあげておきたい。このための議論の深化こそ、日本の発展にとって、最重要かつ喫緊の課題であることは言うまでもない。

まだ道半ばであり、多くの英知と努力が不可欠であることは言うまでもない。

1 件のコメント:

株の銘柄 さんのコメント...

とても魅力的な記事でした!!
また遊びに来ます!!
ありがとうございます。。