デジタル人材が何十万人足りないと叫ばれている。確かにデジタル化には人材が必
要かもしれないが、それでDXが達成されるわけではない。つながらない個別デジタ
ルをたくさん作っても、使えないデジタルのムダが積みあがるだけである。業務も
データ項目もバラバラ、さらにペーパレスといってFAXからPDF転送に変えても、つ
ながらない。データが自動伝送され自動的に処理されることがデジタル化である。
企業間業務でのデジタルはもっと悲劇的である。価格一つとっても定価、上代、卸
価格、数量値引き、出精値引き、キックバック、リベート、キャンペーン価格、バ
ックマージン、割り戻し、原価に戻すか、販売費に計上するか、振込手数料はどち
らが負担するのかなど、業界ごと、各社ごとの煩雑かつ定義もあいまいな商慣習と
取引ルール、日本全体では、何10万社と何10万社とが企業間で確認・調整しなけれ
ばつながらない。中小企業が、一社依存の下請け体質から脱し、複数の顧客と取引
しようとすれば、その煩わしさは増大する。
デジタル化の前提は簡素化と標準化にある。大企業ごとの取引ルール、いわば方言
を標準語に変えなければ、取引の会話は成り立たない。中小企業の共通EDIが作られ
てきたが、調整するための膨大な作業が必要なため、一定の成果は上がったとして
も広がりは限定的である。つまりデジタル人材が増強されても、企業間のDX、すなわちEDIは一向に実 現しない。
かつて ERPが日本に導入された時、ベストプラクティスと呼ばれた標準的な業務に移行するチャンスが一度だけあった。しかし、パッケージに業務を合わせたくないとして、カストマイズに次ぐカストマイズを繰り返し、煩雑な企業間業務を中小企業に押し付け、大量の負の遺産を作り出してしまった。
新型コロナ対策と同じようにDX緊急事態宣言を発出し、「日本経済の成長に不可欠なデジタル化を最優先に必要な対策は躊躇なく実行する」、とりわけ、国、業界あげて、企業間業務の簡素化、標準化、さらに自動化に取り組まなければならない。いかに大企業
が人材投資やSDGsを語っても、それは株主対策でしかなく、日本にデジタル社会を
実現させることにはつながらない。
従来から、アトキンソンらは、日本の低生産性の元凶は中小企業にあって、厚い補
助政策が、中小企業をダメにし、退出すべき企業の延命を図ってきたと述べる。し
かし、少なくとも、中小企業の生産性の低さは、経営者のせいでも、ITリテラシー
の低さでもない。
「日本の中小企業の生産性が低いといわれているが、・・・社内より企業間のやり
取りに無駄があり、中小企業にしわよせがいっている。・・・企業間がデジタルで
つながり、業務連携が自動化できれば、中小企業の生産性は大きく向上する」(岐
阜新聞2021.09.16、松島コメント)。
多くの地方の中小企業は大都市の大企業とばかり取引しているわけではない。まず、
厳しい環境下にある地方の金融機関に、地域内経済圏域における取引のデジタル化
のリーダーシップを発揮してもらいたい。受発注データ管理から電子インボイス発
行代行・回収、そして決済業務に至る中小企業の基幹業務を支援するとともに、中
小企業の資金運用サービスを組み合わせることで、経営者が安心して経営に専念で
きるようになる。中小企業のDXとは、安定した財務基盤と安心して接続できる業務
連携基盤の上にビジネスモデル再構築を図ることである。
国が何かをしてくれるのを待っていては、DXの機会を逸してしまう。主体的に連携
基盤を創り地域未来に向けたデジタル投資を行うことが真の地方創生につながる